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チェーン外で消費する財とチェーン内で提供する機能からビットコインの凄さとPoSの難しさを考える

Note

こちらのページでは会員制のリサーチコミュニティ「TokenLab」で18年9月に公開したものを無料公開しています。

前回のレポート

次回は「とはいえ地球が養えるビットコイン型のPoWは有限だし、貨幣としてのトークンは今のところビットコイン以外考えられない。つまり他のプロジェクトは別のやり方を採用せざるを得ない」について書きます。

と書きました。

電気を消費しまくる貨幣は一つが限界では

まずは以下のデータをご覧下さい。

ビットコインの消費電力がどの国の総消費電力に匹敵するかというグラフです。チェコ、チリ、オーストリア、フィリピン、ベネゼエラあたりと同じくらいだと分かります。

btc%20electricity2|690x459 Bitcoin Energy Consumption Index - Digiconomist

消費電力の伸びはやや抑えられていますが、数ヶ月単位では上昇傾向にあることが分かります。ちなみにここではグラフを表示していませんが、ハッシュレートは消費電力以上に伸びています。これはASICの電気効率が改善されているためです。

btc%20electricity|690x459 Bitcoin Energy Consumption Index - Digiconomist

これは世界の消費電力です。こちらも増加傾向にあります。こちらのデータと上のビットコインの消費電力から計算するとビットコインは世界の消費電力の約0.35%を消費していることになります。

以下の記事では0.5%という数字が使われています。 Bitcoin will use 0.5% of world’s electricity by end of 2018, finds study | The Independent

electricity2017|690x305 世界の電力消費量 | 電力消費量 | Enerdata

電気消費の是非はともかく、ビットコインが大量の電気を使っていることは間違いなさそうです。

当然、ビットコインと同じくらい電気代を使うプロジェクトが地球上にいくつも存在することは不可能ですし、意味もありません。

故に、ビットコインに着想を得たプロジェクトも、ビットコインと全く同じ仕組みで動かすわけには行きません。

※電気代がたくさん費やされているからセキュアなのではなく、**現時点では**高価なASICと電気代という2つの貴重な資源を使わなければビットコインのブロックを生成したり改竄したりすることができないため、ビットコインはセキュアになっています。つまりチェーン外の貴重な資源を"消費"しなければ、ビットコインは手に入らないため、攻撃コストが高くなっているということです。

貨幣として機能し得るプロジェクトとしては「ビットコインキャッシュ」、「Monero」、「Zcash」等があります。いずれもPoWでASIC/GPUと電気代を費やして発行されています。ビットコインキャッシュはビットコインのフォークとして、MoneroとZCashは秘匿化技術という特色を持った通貨として存在しています。「DASH」もベネゼエラで貨幣として使われているようです

匿名機能は、貨幣にとって重要なFungibilityを確保するために必要です。もちろんダークマネーや現在の節税スキームの代替としても注目されています。

匿名通貨とFungibility(代替性) | Individua1

ビットコインの守備範囲を超えていく義務

ビットコインとは別のプロジェクトとしてスタートするためには「ビットコインの守備範囲を超える」必要があります。そうでなければ、ビットコインの劣化コピーになってしまいます。

上に挙げた匿名通貨であれば秘匿機能がビットコインにはできないことです(これもセカンドレイヤーでビットコインにおいても実現してしまう可能性もありますが)。Ethereumであればチューリング完全のEVM(Ethereum Virtual Machine)がこれに当たります。

ただし、Ethereumのように守備範囲を広げすぎると様々な課題に直面します。これが難しいところです。通貨としての機能はビットコインが提供していますので、その椅子はもう空いておらず、別の機能を提供する必要があるわけですが、

  1. そもそも通貨以外のプロジェクトをPoWで運営する意味があるのか
  2. とはいえ、PoW以外でトークンを発行したとして、そのトークンは経済的インセンティブの核になるのか
  3. インセンティブの核にならないのであれば、ビットコインが提示したセキュリティモデル、経済モデルは使えないのではないか
  4. 純粋にユーティリティトークンとして使うために実現しなければならないスケーラビリティやエコシステム創造のハードルが高すぎではないか

などの問題が噴出します。

ビットコインというのは「仮に今コードの更新が止まっても価値があるトークン」と言っても過言ではなく、課題はまだまだありますが、それでも現時点で使用に耐えうるトークンです(異論は絶対ありますし、認めますが)。

Nakamoto consensusの場合、確率的ファイナリティしか得られないので(※ファイナリティについては後日解説)、DPoSなりPBFTなりで代替するプロジェクトが多く出ています。EOSやDFINITY、Zilliqaが例です。

しかしPoSには前回のレポートで紹介したような「プレマイン問題」があります。

今までの話を以下にまとめます。

  1. PoWの最善の利用はビットコインに独占されている →チェーン外の"価値"をナンスの探索を通じて、チェーン内に注入し、(電気代+ASIC代+人件費)をFungibleな資産(=BTC)に変換する方法を採用しているプロジェクトの中ではビットコインが圧倒的に強い。

  2. PoW(Nakamoto consensus)でビットコインの守備範囲を超えることは可能だが、提供できる機能が限定される →現時点では匿名送金くらいでしょう。

  3. PoSはディストリビューションに課題がある前回のレポートで書いたとおり初動がとにかく難しいです。

  4. PoWの長所を活かしたPoSでフェアな運用を目指すと中途半端な立ち位置になってしまう →Casperもこうなる可能性があると思うのですが、PoSなのにPoWと同じような分散性や公平性を確保しようとすると、PoWほどは公平でなく、且つDPoSほどは早くないという性能になり得ます。

  5. PoSの短所を無視して長所に集中するとユーティリティを提供する必要がある →EOSがそうですが、中央集権的になることを厭わず、スケーラブルなチェーンを構築すれば、SoV(Store of Value)や貨幣としての機能は果たせず、純粋に用途を提供する必要があります。そしてこの用途が曲者で、用途の中にトークンの流通速度を小さくする仕組みを内蔵して、トークンの価値を下支えする設計にするケースが多いですが、これは利便性を損なう可能性があります。

ビットコインの凄さを認識した上でどう動くか

正月にこんなことを書いたのですが、この考えは今も変わっておらず、やはり「ビットコイン/オルトコイン」という図式に納得が行く程度には、ビットコインは凄いと思います。

当然こんなことはVitalik ButerinもDaniel Larimerも私の100倍以上の広さと深さで理解しているわけですが、我々も彼ら(Vitalik ButerinやDaniel Larimer等の開発者)の凄さに圧倒されずにビットコインを過小評価せず、その凄さを理解しておくと、オルトコインや新興プロジェクトをより深く理解できるのではないかと思っています。

※これは私が「BTCの価格が上がると予想している」というわけではありません。またTokenLabの各レポートはできる限り客観的情報に基づいて書いていますが、最終的には私個人の解釈に依存してしまうので、どの情報をどのように扱うかはご自身が判断して下さい。