チェーン外で消費する財とチェーン内で提供する機能からビットコインの凄さとPoSの難しさを考える
Note
こちらのページでは会員制のリサーチコミュニティ「TokenLab」で19年3月に公開したものを無料公開しています。
Chris Burniskeの投資理論やJoel MonegroのFat Protocolなど海外ではトークン価値の算出方法について様々な議論がなされており、未だに標準化されたトークンモデルの評価方法は存在しないものの、投資家・投機家は多いにも関わらず、この領域があまり議論されない日本とは大きな隔たりがあるように感じています。
本レポートではトークンに価値の滞留モデルについて概観してみたいと思います。
ガバナンスはネットワークの所有権をトークンに与える仕組み
「ガバナンス」という単語は様々な意味で使われるのでややこしいのですが、ここでは「ネットワークのパラメーターやアルゴリズムを変えるための権利」とします。
例えばMakerDAOであれば、DAI発行に関連するパラメーター(手数料やDAIの発行上限など)をホルダーの投票によって変化させることができます。
ここで区別したいのは「ホルダーの投票によるパラメーターの変更を実現することにより、分散的な統治を行うことの重要性」と「トークンにガバナンス機能を付けることで、ネットワークの所有権をトークンホルダーに移譲する意味」です。
前者はイデオロギー領域の話で、後者はトークン設計領域の話です。
例えば「MakerDAOのパラメーターはMKRホルダーの投票によってしか変更できない」のであれば、MakerDAOの開発チームであってもホルダーが支持しないパタメーターの変更はできません。ホルダーはネットワークの仕様変更を通じて、自身の利益の最大化を図ります。
逆にガバナンス機能がついていなければ、トークンやコインのホルダーは自身の意志をネットワークに反映することはできず、ネットワークを所有していることにもなりません。ビットコインやEthereumがそのような仕組みです。
BTCやETHをたくさん持っていれば、市場を通じて影響を与えることは可能ですし、ConsenSysのようにエコシステムへの投資によって間接的に影響を与えることもできますが、これはガバナンスとは異なるやり方です。
MakerDAOや0x Protocol, 最近ではNumeraiがガバナンス機能の付加を発表しましたが、特に著名なVCが参画しているプロジェクトにおいてガバナンス機能の付加が順に行われていることは偶然ではないでしょう。
ガバナンスは理念の実現というよりも、株式とは異なり保有によって何かの所有権を得るわけではないトークンに、ネットワークの所有権を与える仕組みだと言えます。
価値の滞留方法から考える
更に価値の滞留について考えてみましょう。価値の滞留というのは「トークンは売買が可能であり、価値は法定通貨や暗号通貨の"交換圏"を流通していくが、その価値が集まりやすい場所と集まりにくい場所がある」という意味で使っています。
ここではトークンの滞留に関する3つの方法を見てみましょう。
バーン(Burn=消滅)
MakerDAOやKyberNetworkが採用している手法で、使用されたトークンや使用されたトークンの手数料として徴収した"売上"を使って、ネイティブトークンをバーンするタイプのものです。
バーンされたトークンは永久に市場からは消えるので、バーンポイントに引き寄せられたトークンを永遠にその場所に固定するわけです。
例えばMKRのバーンに使用されたDAIの手数料は、二度と他の用途では使われず、MKRのバーンを最後の用途として、永久にそこに留まることになります。その結果、MKRの流通量は減少していくことになります。
KyberNetworkのKNCも似たような仕組みですね。
ステイキング
ステイキングは、マスターノードやバリデーターノードになってサービスの提供やブロックの生成を行うために、自身が保有するトークンや他人から委任されたトークンをロックすることです。
ステイキングは一時的にはトークンをロックしますが、永遠にロックされるわけではないのがバーンとの違いです。またステイキングには、ロックによる機会費用の支払いのみならず、何らかの労働やコンセンサスへの参加が義務付けられているのが特徴となります。
DASHやNEM, Decredで採用されています。
手数料
ユーティリティトークンとして使用されるZRXなどのトークンは手数料として支払われるのみで、ロックはされません。故に、トークンの所有者が変わるだけで、トークン自体のネットワークにおける性質が変わるわけではありません。
複数の手法を複合する
これらを組み合わせてトークンモデルを設計することも可能です。例えばBinanceのBNBは取引所収益の一部を使ったバーン、Binance chainにおけるノード運営のためのステイキングとLaunch pad参加のためのBNB保有、BNBでの支払いによる手数料の割引など上記の全ての手法を使っています。
全てを採用すればトークンの価値が上がるわけではないのですが、トークンモデルからトークンの価値の滞留を考えるときには、「その仕組みが、価値をどのようにネットワークに封じ込めようとしているのか」という観点で眺めるのが有効かと思います。